型が命題であるとは、その型の任意の2点を同一視できることであった:
定義(命題)
型族isPropU:U→Uを次のように定義する。
isProp(A)≡defx,y:A∏Id(x,y) 型A:Uが命題であるとは、型isProp(A)を持つ項を選択できることである。さらに、命題の宇宙hPropU:U+を、
hPropU≡defA:U∑isProp(A) と定義する。
命題の元は高々1つしかないので、命題のことをsubsingletonとも呼ぶ。
さて、型理論における同一視型(identity type) Id(x,y)について、以下の公理UIP (Uniqueness of Identity Proofs)は成り立つであろうか。
公理(Uniqueness of identity proofs)
任意の型Aとx,y:Aについて、Id(x,y)は命題である。
IntensionalなMartin-löf型理論では、この公理を証明することができない
公理Kは使わないとする。
。ただし、個々の型について見ると、UIPが成り立つような型は存在し、そのような型は集合と呼ばれる:
定義(集合)
型族isSetU:U→Uを次のように定義する。
isSet(A)≡defx,y:A∏isProp(Id(x,y)) 型A:Uが集合であるとは、型isSet(A)を持つ項を選択できることである。さらに、集合の宇宙hSetU:U+を、
hSetU≡defA:U∑isSet(A) と定義する。
つまり、集合の任意の2点は、高々1通りの方法で同一視される。
本稿では「命題の宇宙hPropUが集合である」ということを示したい。しかし、この定理の証明はそこまで自明でもない。したがって、「集合であること」と論理的同値な言明を確立し、それが命題の宇宙に対して成り立つことを見る。
目次
- 完全な証明
- メタ理論
- 集合の特徴付け
- 写像の外延性と命題の外延性
- 主定理
完全な証明
本稿では一部の証明を省略しているが、完全な証明はAgdaで書いてある。
メタ理論
前回の記事と同様、intensionalなMartin-löf型理論をメタ理論とする。
集合の特徴付け
定義(Weakly constant function)
AとBを任意の型とする。写像f:A→Bがweakly constantであるとは、任意のx,y:Aについて、Id(fx,fy)の元を選択できることである。
この定義がweaklyと呼ばれている理由は、Bが集合であるとは限らないため、w(x,z)が「w(x,y)とw(y,z)の合成」と同一視できるとは限らない、つまりcoherenceが成り立つとは限らないからである。
定義(PathConstEndo)
ConstEndo(A)≡deff:A→A∑WeakConst(f) PathConstEndo(A)≡defx,y:A∏ConstEndo(Id(x,y))
補題(グルーポイド則:逆射)
A:Uを型、x,y:Aを項とする。任意の同一視p:Id(x,y)について、p−1は左逆射(left inverse)かつ右逆射(right inverse)になる。すなわち、
lInv:Id(p−1∙p,refl) と
rInv:Id(p∙p−1,refl) を構成できる。
補題(集合の特徴付け)
任意の型Aについて、isSet(A)とPathConstEndo(A)は論理的同値である。
証明
isSet(A)→PathConstEndo(A)は本稿の残りの部分で利用しないのでここでは省略する。詳細はAgdaでの証明を見ること。
PathConstEndo(A)→isSet(A)を証明する。isSet(A)を示すには、任意のx,y:Aとp,q:Id(x,y)について、型Id(p,q)の項を構成する必要がある。wx,y:Id(x,y)→Id(x,y)をweakly constant functionとしたとき、写像
f:r:Id(x,y)∏Id(r,(wx,x(refl))−1∙wx,y(r)) を次のように帰納法で定義する。
f(refl):Id(refl,(wx,x(refl))−1∙wx,x(refl))≡deflInv−1 ここで、wx,yがweakly constant functionなので、Id(wx,y(p),wx,y(q))となる。この同一視をsと書くと、型Id(p,q)を持つ項
s∗(f(p))∙(f(q))−1 を構成できる。
写像の外延性と命題の外延性
PathConstEndo(hPropU)を示すためには、2つの公理「写像の外延性(function extensionality)」と「命題の外延性(propositional extensionality)」が必要になる。これらはどちらもunivalence公理の帰結である。
定義(happly)
f,g:∏x:AB(x)について、写像
happlyf,g:Id(f,g)→x:A∏Id(fx,gx) を帰納法を用いてhapplyf,f(refl,x)≡defreflと定義する。
公理(写像の外延性)
U,Vを宇宙とする。
funExtU,V:A:U∏B:A→V∏f,g:∏x:AB(x)∏isEquiv(happlyf,g)
公理(命題の外延性)
Uを宇宙とする。
propExtU:P,Q:hPropU∏((P→Q)→(Q→P)→Id(P,Q))
命題の外延性はunivalence公理をhPropに制限したものと捉えられる。
主定理
補題(命題であることは命題)
命題であることは命題である。具体的には、Uを宇宙とし、写像の外延性funExtU,Uを仮定すると、任意の型A:Uについて、isProp(isProp(A))となる。
定理(命題の宇宙は集合)
Uを宇宙とする。写像の外延性funExtU,Uと命題の外延性propExtUを仮定したとき、U内の命題の宇宙は集合となる。すなわち、isSet(hPropU)となる。
証明
isSet(hPropU)とPathConstEndo(hPropU)は論理的同値なので、後者を示す。
PとQを任意の命題とする。命題の外延性を用いると、写像
Id(P,Q)⟶refl↦(id,id)((P→Q)×(Q→P))⟶propExtId(P,Q) を構成できる。PとQが命題であることと写像の外延性により、(P→Q)×(Q→P)も命題である(これは読者への練習問題とする)。したがって、この写像Id(P,Q)→Id(P,Q)はweakly constantになる。