(Single-sortedな)一階直観主義論理(first-order intuitionistic logic with equality)のシークエント計算LJを与える。
定義(シグネチャ)
シグネチャ(signature)は、以下のデータΣ=(F,R)から成る。
- 集合Fと関数ar:F→N
- Fの要素を関数記号(function symbol)と呼ぶ。
- 各f∈Fについて、ar(f)∈Nはfのarity、つまり引数の数を示す。
- 集合Rと関数ar:R→N
- Rの要素を関係記号(relation symbol)と呼ぶ。
- 各r∈Rについて、ar(r)∈Nはrのarityを示す。
シグネチャの定義において、FやRは無限集合になり得るが、関数記号や関係記号のarityは有限個に制限されていることに注意。
仮定(変数)
本稿では、可算無限集合Varが存在すると仮定する。Varの要素を変数(variable)と呼ぶ。
定義(項文脈)
項文脈(term context) Γとは、変数の有限集合のことである。
定義(項)
シグネチャΣ=(F,R)を固定する。項文脈Γに対して、集合Term(Γ)を次のように帰納的に定義する。
- x∈Γならば、x∈Term(Γ)
- f∈Fかつn=ar(f)であり、任意の1≤i≤nについてMi∈Term(Γ)であるならば、f(M1,…,Mn)∈Term(Γ)
Term(Γ)の要素を「項文脈Γにおける項(term)」と呼ぶ。
補題
M∈Term(Γ)かつΓ⊆Γ′ならば、M∈Term(Γ′)となる。
定義(命題)
シグネチャΣ=(F,R)を固定する。項文脈によってインデックス付けされた命題(proposition)を次のように帰納的に定義する。
Γ⊢r(M1,…,Mar(r)) propr∈RMi∈Term(Γ) (for 1≤i≤ar(r)) Γ⊢A∧B propΓ⊢A propΓ⊢B prop Γ⊢A∨B propΓ⊢A propΓ⊢B prop Γ⊢⊤ propΓ⊢⊥ prop Γ⊢A⇒B propΓ⊢A propΓ⊢B prop Γ⊢∀xA propΓ,x⊢A propΓ⊢∃xA propΓ,x⊢A prop Γ⊢M=N propM∈Term(Γ)N∈Term(Γ)
本稿では、束縛変数名による違いを同一視する。
定義(命題文脈)
シグネチャΣを固定する。項文脈Γにおける命題文脈(proposition context) Δとは、Γにおける命題の有限列のことである。
定義(理論)
理論(theory) T=(Σ,A)は、次のデータから成る。
- シグネチャΣ=(F,R)
- 「項文脈Γ、Γにおける命題文脈、Γにおける命題」の3項関係A
- 各要素(Γ,Δ,A)∈Aを公理と呼ぶ。
定義(Entailment)
理論T=(Σ,A)に対して、「項文脈Γ、Γにおける命題文脈、Γにおける命題」の3項関係として、entailment judgmentを次のように帰納的に定義する。
Γ∣Δ⊢A(Γ,Δ,A)∈A(Ax)Γ,x∣Δ⊢AΓ∣Δ⊢A(T-Weak) Γ,x∣[x/y]Δ⊢[x/y]AΓ,x,y∣Δ⊢A(T-Contr)Γ∣Δ,A⊢BΓ∣Δ⊢B(P-Weak) Γ∣Δ,A⊢BΓ∣Δ,A,A⊢B(P-Contr)Γ∣Δ,A,B,Δ′⊢CΓ∣Δ,B,A,Δ′⊢C(P-Ex) Γ∣Δ,A⊢A(Id)Γ∣Δ,Δ′⊢BΓ∣Δ⊢AΓ∣Δ′,A⊢B(Cut) Γ,Γ′∣[M/x]Δ⊢[M/x]AΓ,x∣Δ⊢AM∈Term(Γ′)(Subst) Γ∣Δ⊢A∧BΓ∣Δ⊢AΓ∣Δ⊢B(∧R)Γ∣Δ⊢A∨BΓ∣Δ⊢A(∨R1)Γ∣Δ⊢A∨BΓ∣Δ⊢B(∨R2) Γ∣Δ,A∨B⊢CΓ∣Δ,A⊢CΓ∣Δ,B⊢C(∨L)Γ∣Δ,A∧B⊢CΓ∣Δ,A⊢C(∧L1)Γ∣Δ,A∧B⊢CΓ∣Δ,B⊢C(∧L2) Γ∣Δ⊢⊤(⊤R)Γ∣Δ,⊥⊢A(⊥L) Γ∣Δ⊢A⇒BΓ∣Δ,A⊢B(⇒R)Γ∣Δ,A⇒B⊢CΓ∣Δ⊢AΓ∣Δ,B⊢C(⇒L) Γ∣Δ⊢∀xAΓ,x∣Δ⊢Ax∈/fv(Δ)(∀R)Γ∣Δ⊢∃xAM∈Term(Γ)Γ∣Δ⊢[M/x]A(∃R) Γ∣Δ,∃xA⊢BΓ,x∣Δ,A⊢Bx∈/fv(Δ,B)(∃L)Γ∣Δ,∀xA⊢BM∈Term(Γ)Γ∣Δ,[M/x]A⊢B(∀L) Γ,x,y∣Δ,x=y⊢AΓ,x∣[x/y]Δ⊢[x/y]A(=LF1)Γ,x∣[x/y]Δ⊢[x/y]AΓ,x,y∣Δ,x=y⊢A(=LF2)
理論間の関係
シグネチャの定義において、「集合Xと関数X→N」という形が出てきたが、これはスライス圏Set/Nの対象である。したがって、シグネチャとは積圏Sign≡defSet/N×Set/Nの対象のことである。この圏の射(F,R)→(F′,R′)は、関数F→F′と関数R→R′であって、両方ともarityを保存するようなものである。
定義(シグネチャのextension)
シグネチャの圏Signにおいて、モノ射Σ→Σ′が存在するとき、Σ′をΣのextensionと呼ぶ。
既存の文献においては、シグネチャ(あるいはlanguage)のextensionは部分集合を用いて定義されることもある。しかし、「部分集合である」ということは同型によって保たれないので、ここではモノ射を使った。
定義(理論の圏)
理論の圏Thを次のように定義する。
- Thの対象は理論である。
- Thの射(Σ,A)→(Σ′,A′)は、Signの射ϕ:Σ→Σ′であって、任意の(Γ,Δ,A)∈Aについて、
Γ∣ϕΔ⊢ϕA
が理論(Σ′,A′)において導出可能であるようなものである。
理論(Σ,A)からシグネチャΣを取り出す操作は、忘却関手U:Th↪Signの対象の部分を成す。この関手Uはfibrationになるらしいが、本稿ではそれを示すことはしない。
定義(理論のextension)
理論T′が理論Tのextensionであるとは、Thの射f:T→T′が存在して、Uf:UT→UT′がシグネチャのextensionになることである。
アウトロ
シグネチャの圏Signの射は関数記号を関数記号に写したが、より便利な概念としてtranslationがあり、これは関数記号を項に写す。このtranslationはKleisli圏の射として表されるが、これを記述するには意味論とinitial modelについて話す必要がある。また、上記でextensionの定義はしたがconservative extensionの話はしなかった。この記事
よく見たらauthorがMax Newだ。
を見る限り、conservative extensionもinitial modelを使って定義できそうだ。